ふゅか
ねえ、Hölderの不等式って知ってる?響きがかっこいいよね!
はるか
1. Hölderの不等式とは?
非負の実数からなる複数の数列(または行列の要素) {{aij}i=1n}j=1m と、合計が 1 である非負の重み{wi}i=1n が与えられているとします。このとき、次の不等式が成り立ちます。
j=1∑mi=1∏naijwi≤i=1∏n(j=1∑maij)wi
1.1. 英語と日本語
- 英語 ・・・Hölder’s inequality
- 日本語・・・ヘルダーの不等式
また、関数解析の分野においても同じ名前の不等式があります。
2. 具体例
この不等式を少しラフな書き方をすると、
数列 {ai}i=1n,{bi}i=1n,⋯{zi}i=1nに対して、重みがwa,wb,⋯,wzとあるとき、
a1wab1wb⋯z1wz+⋯+anwabnwb⋯znwz≤(a1+a2+⋯+an)wa(b1+b2+⋯+bn)wb⋯(z1+z2+⋯zn)wz
ふゅか
はるか
例えば、複数の数列(ベクトル)があるとする。その数列の重みを使って値を比較する式。
2.1. m=2,n=2 の場合:
j=1∑2i=1∏2aijwi≤i=1∏2(j=1∑2aij)wi
左辺: i=1∏2ai1wi+i=1∏2ai2wi=a11w1a21w2+a12w1a22w2
右辺: i=1∏2(j=1∑2aij)wi=(a11+a12)w1⋅(a21+a22)w2
不等式: a11w1a21w2+a12w1a22w2≤(a11+a12)w1⋅(a21+a22)w2
2.2. m=1,n=3 の場合:
j=1∑1i=1∏3aijwi≤i=1∏3(j=1∑1aij)wi
左辺: i=1∏3ai1wi=a11w1a21w2a31w3
右辺: i=1∏3(j=1∑1aij)wi=a11w1⋅a21w2⋅a31w3
不等式: a11w1a21w2a31w3≤a11w1⋅a21w2⋅a31w3
この場合、m=1 のため、左辺と右辺は等しい。
2.3. m=3,n=2 の場合:
j=1∑3i=1∏2aijwi≤i=1∏2(j=1∑3aij)wi
左辺: i=1∏2ai1wi+i=1∏2ai2wi+i=1∏2ai3wi=a11w1a21w2+a12w1a22w2+a13w1a23w2
右辺: i=1∏2(j=1∑3aij)wi=(a11+a12+a13)w1⋅(a21+a22+a23)w2
不等式: a11w1a21w2+a12w1a22w2+a13w1a23w2≤(a11+a12+a13)w1⋅(a21+a22+a23)w2
以上が、各具体例の展開になります。
3. Hölderの不等式とコーシー・シュワルツの不等式の関係
コーシー・シュワルツの不等式(の一形)は、次のように表されます。
(a12+a22+⋯+am2)(b12+b22+⋯+bm2)≥(a1b1+a2b2+⋯+ambm)2
この不等式を次の形に変形することも可能です。
j∑ajbj≤j∑aj2⋅j∑bj2
ここで、Hölderの不等式を n=2, w1=w2=1/2 の場合に適用すると、数列 aj2 と bj2 を用いた形でコーシー・シュワルツの不等式を導くことができます。
4. Hölderの不等式の証明
Hölderの不等式を証明するためには、「重み付きAM-GM不等式」を用います。この証明を順を追って説明します。
4.1. 証明のための準備
この不等式を証明するためには、重み付きAM-GM不等式を利用します。
重み付きAM-GM不等式(weighted AM-GM inequality)は、非負実数列 (a1,a2,…,an) と、その要素に対応する正の重み(係数)w1,w2,…,wn があり、これらの重みの和が
w1+w2+⋯+wn=1
であるときに次の不等式が成り立ちます。
i=1∑nwiai≥i=1∏naiwi
4.2. 証明
まず、左辺を効率的に扱うため、以下のように αk を定義します(k=1,2,…,m)。
αk=j=1∑mi=1∏naijλii=1∏naikwi
ここで、次の性質が成り立ちます。
- αk≥0(定義より明らか)。
- ∑k=1mαk=1。
この性質により、{αk} を「重み」として、重み付きAM-GM不等式を適用します。
k=1∑maij=j=1∑mαj⋅αjaij≥j=1∏m(αjaij)αj
この不等式は、任意iについて、成り立っています。したがって、各iごとに、wi乗して積をとったとしても、不等号は変わらないので、
i=1∏n(k=1∑maij)wi≥i=1∏n[j=1∏m(αjaij)αj]wi
右辺の不等式を変形すると
i=1∏n[j=1∏m(αjaij)αj]wi=j=1∏m[i=1∏n(αjaij)wi]αj=j=1∏m(αj1i=1∏naijwi)αj
αj1i=1∏naijwiに着目すると
αj1i=1∏naijwi=i=1∏naijwij=1∑mi=1∏naijwii=1∏naijwi=j=1∑mi=1∏naijwi
したがって、添え字が被るのでkを使って、右辺の不等式は
i=1∏n[j=1∏m(αjaij)αj]wi=k=1∏m(j=1∑mi=1∏naijwi)αk=j=1∑mi=1∏naijwi
このことから、
j=1∑mi=1∏naijwi≤i=1∏n(j=1∑maij)wi
この不等式において等号が成立するのは、重み付きAM-GM不等式より、
αjaij =αkaik
i,j,kは添え字の範囲内の任意の整数。
すなわち、数列 {aij} が「互いに定数倍の関係(比例関係)」にあるときに限られます。
5. 重みの部分がわかりにくい人へ
αk=j=1∑mi=1∏naijλii=1∏naikλi
とありますが、この和が1になるのが少しわかりにくいかもしれません。そんなときは、Mj=i=1∏naijλiと置き換えて、式をわかりやすくしてみましょう。
αk=∑j=1mMjMk
となります。このことから、∑αkを計算すると、明らかに1になりますよね。