はるか
ふゅか
そうね。行列の積が交換できるやつね!例えば、逆行列と行列みたいな感じの!
1. 可換な行列とは
行列 A と B が可換であるとは、行列の積が順序に依存せず同じ結果となることを意味します。以下の条件が満たされるとき、行列 A と B は可換であると言います。
AB=BA
1.1. 可換な行列の具体例
1.1.1. スカラー行列と任意の行列
スカラー行列 kI (I は単位行列)と任意の行列 A は常に可換です。すなわち、次の式が成り立ちます。 kI⋅A=A⋅kI これはスカラーの性質によるものです。
1.1.2. 対角行列同士
対角行列同士は常に可換です。例えば、 A=(a00b),B=(c00d) の場合、行列の積 AB と BA は次のようになります。 AB=(ac00bd),BA=(ac00bd) したがって、AB=BA となり、可換です。
1.1.3. 回転行列とその逆行列
2Dの回転行列 R(θ) とその逆行列 R(−θ) は可換です。例えば、 R(θ)=(cosθsinθ−sinθcosθ),R(−θ)=(cosθ−sinθsinθcosθ) これらの積は順序に依存せず、単位行列になります。 R(θ)R(−θ)=R(−θ)R(θ)=I
はるか
2. 可換な行列の性質
2.1. 二項定理が成り立つ
行列 A と B が可換である場合、つまり AB=BA であるとき、次の二項定理のような等式が成り立つ。
(A+B)n=k=0∑n(kn)An−kBk
ふゅか
n=1 のとき、 (A+B)1=A+B です。一方で、右辺を n=1 で評価すると、 k=0∑1(k1)A1−kBk=(01)A1−0B0+(11)A1−1B1=A+B これにより、n=1のときは成り立ちます。
次に、n=m のときに命題が成り立つと仮定します。
仮定により、
(A+B)m=k=0∑m(km)Am−kBk が成り立つとします。このとき、(A+B)m+1 を次のように書けます。
(A+B)m+1=(A+B)(A+B)m
仮定を代入すると、
(A+B)m+1=(A+B)k=0∑m(km)Am−kBk
右辺を分配法則を使って展開すると、
(A+B)m+1=k=0∑m(km)Am−k+1Bk+k=0∑m(km)Am−kBk+1
ここで、式を一つの総和にまとめるために、各項の k を調整します。まず、左の項は k のままで、右の項は k を k+1 に置き換えます。
(A+B)m+1=k=0∑m(km)A(m+1)−kBk+k=1∑m+1(k−1m)Am−(k−1)Bk
これをさらに整理すると、
(A+B)m+1=Am+1+k=1∑m((km)+(k−1m))A(m+1)−kBk+Bm+1
ここで、二項係数の性質 (km)+(k−1m)=(km+1) を使うと、
(A+B)m+1=Am+1+k=1∑m(km+1)A(m+1)−kBk+Bm+1
これをまとめると、
(A+B)m+1=k=0∑m+1(km+1)A(m+1)−kBk
したがって、全ての自然数 n に対して、
(A+B)n=k=0∑n(kn)An−kBk
が成り立つことが数学的帰納法により証明されました。
2.2. 指数関数
行列の指数関数 eA と eB は、行列 A と B が可換であれば次の性質を持ちます。
eA+B=eAeB=eBeA
ただし、行列 A の指数関数 eA は、次の無限級数で定義されます。
eA=n=0∑∞n!An
行列 B についても同様です。
行列 A と B が可換である、すなわち AB=BA が成立するとき、先ほど示したように二項定理が行列にも適用できます。次のように表せます。
(A+B)n=m=0∑nm!(n−m)!n!AmBn−m
eA+B の定義に従って展開すると、
eA+B=n=0∑∞n!(A+B)n
これに先ほどの二項定理を適用すると、
eA+B=n=0∑∞n!1m=0∑nm!(n−m)!n!AmBn−m
となります。この式を整理すると、
eA+B=n=0∑∞m=0∑nm!Am(n−m)!Bn−m
eA+B=(m=0∑∞m!Am)(n=0∑∞n!Bn)
したがって、
eA+B=eAeB
となります。
同様の議論を eB+A についても行うと、eA+B=eB+A=eBeA も成立するため、
eA+B=eAeB=eBeA
が示されました。
2.3. 対角行列同士が可換
A=diag(a1,a2,…,an)、B=diag(b1,b2,…,bn)と置いたとき、A,Bは可換である。
ここで、対角行列 A と B の要素は次のようになっています。
A=a10⋮00a2⋮0⋯⋯⋱⋯00⋮an B=b10⋮00b2⋮0⋯⋯⋱⋯00⋮bn
まず、行列 AB を計算します。
AB=a10⋮00a2⋮0⋯⋯⋱⋯00⋮anb10⋮00b2⋮0⋯⋯⋱⋯00⋮bn
行列の積を行うと、対角成分はそれぞれの成分の積となります。
AB=a1b10⋮00a2b2⋮0⋯⋯⋱⋯00⋮anbn
次に、行列 BA を計算します。
BA=b10⋮00b2⋮0⋯⋯⋱⋯00⋮bna10⋮00a2⋮0⋯⋯⋱⋯00⋮an
同様に計算すると、
BA=b1a10⋮00b2a2⋮0⋯⋯⋱⋯00⋮bnan
行列の積は成分ごとの積であり、aibi=biai が成り立つため、 AB=BA です。したがって、対角行列同士は可換であることが示されました。
3. 可換な行列の例題
ふゅか
3.1. 例題1(二項定理が成り立つことを確認)
行列A,Bが可換であるとき(A+B)mのm=2⋯4のとき、二項定理が成り立つことを確認しなさい。
m=2 の場合
(A+B)2=(A+B)(A+B)
これを分配法則に従って展開すると、
(A+B)(A+B)=A(A+B)+B(A+B)
=A2+AB+BA+B2
ここで AB=BA なので、
(A+B)2=A2+2AB+B2
m=3 の場合
(A+B)3=(A+B)(A+B)(A+B)
=(A2+2AB+B2)(A+B)
これを分配法則に従って展開すると、
=A2(A+B)+2AB(A+B)+B2(A+B)
さらに展開すると、
=A3+A2B+2ABA+2AB2+B2A+B3
ここで AB=BA なので、整理して、
(A+B)3=A3+3A2B+3AB2+B3
m=4 の場合
(A+B)4=(A+B)(A+B)(A+B)(A+B)
=(A3+3A2B+3AB2+B3)(A+B)
これを展開すると、
=A4+A3B+3A2BA+3A2B2+3ABA2+3AB3+B3A+B4
ここで AB=BA を用いて整理すると、
(A+B)4=A4+4A3B+6A2B2+4AB3+B4
3.2. 例題2(可換な行列に対する指数関数の性質)
次のような対角行列があるとします。
A=(1002),B=(3004)
eA eBとeA+Bを計算しなさい。
まず、行列 A と B の積を計算します。
AB=(1002)(3004)=(3008)
次に、行列 B と A の積を計算します。
BA=(3004)(1002)=(3008)
AB=BA であることが確認できます。したがって、これらの行列 A と B は可換であると言えます。
ふゅか
次に、行列の指数関数
eA と
eB を計算してみましょう。
行列の指数関数は次のように定義されます。
eA=n=0∑∞n!An
対角行列に対する指数関数は、各対角成分に対する指数関数を計算することで簡単に求められます。したがって、
eA=(e100e2),eB=(e300e4)
次に、行列 A と B の和 A+B を求め、その指数関数を計算します。
A+B=(4006)
これにより、
eA+B=(e400e6)
次に、行列の積 eAeB を計算します。
eAeB=(e100e2)(e300e4)=(e1⋅e300e2⋅e4)=(e400e6)
この結果から、eA+B=eAeB が成り立つことが確認できました。